一ヶ月ぶりでございます。
最初に登録してから「文字数限界ギリギリまで書いてやろうかな!」とか思っていたのですが、実生活が忙しかったり体を壊したりして実生活さえ限界ぎりぎりだったので流石に5万文字は少し無理でした。反省。

ネタバレをしてしまうと、今回は固有名詞が一切出てきません。
話以外で他キャラクターが出てきません。
一応はファンタジーです。
剣も魔法も出てきますが、活用出来ているかというとそうでもありません。
異世界トリップありますが、少し僕の考えは違うかも知れません。
学園ものかも知れません。
男女ですが恋愛観は今のところありません。
一部が精神汚染されています。誰とは言いません。
文字数は2万も行きませんでした。残念。
続きは考えてます、本格可動は来年です(え?
ただし、アクセスとかの数によってはそっと閉じて他サイトに載せます。

そんな話ですが、気が向いたらご覧下さい。
二重螺旋世界、開幕です。

1-そして二人は出会った


 発狂するかと思った。
 否、実際には発狂していたのだろう。少なくとも、その瞬間には。
 そう思える程度には、現実を拒否したくてたまらなく。同時に現実は厳しいのだと思い知る。


「待てコラァッ!」


 背後から聞こえてくる声は、正直言って聞いていたいとは思わない。
 まるで長年の仇敵を見つけたかの様な、それこそ「ここで会ったが100年目」と言いたいかの様に聞こえ
る……まあ、大抵の人は100年も生きられないのが理解出来ない人はなかなか多くはないだろう。
 故に、「待てと言われて待つ奴がいるか!」と言うセリフは口にしたかったものの黙殺した。
 と言うより、恐らくは向こうだって耳にしても黙殺するだろうと言う気がする。


 □ □ □ □ □


 さて、状況を整理しよう。
 今現在、一体なにが起きているかと言えば「追いかけっこ」だと誰かが言ったかも知れない。
 幸か不幸か、この状況を第三者目線で見る者がいないので誰もいない事が惜しまれるかどうかは、見た者の判断に委ねるとして。


 時を戻そう。
 現時点から戻す時となれば、これは少々入り組んだ話となってしまうのだが……詳しい話はいずれ語られる事もあるかも知れないとして。
 今この瞬間と言うものを「追いかけっこ」と言う所を始点であるとして、先程から考察して逆転している現状に対し今のこの瞬間に陥ったひとつ前の状況となった所から始めてみよう。

 つまるところ、先ほども「追いかけっこ」をしていたと言うだけの話なのだ。
 ただし、それぞれの人物は同じでも行っていた役割は逆転しているのだが。


 二人について語ろう。
 そう、今この場にあるのは二人の人物だ。二人だけで、他には存在しない。
 場所柄的……このある程度以上の広さが連なるは「学校」と言う認識をされており、今は「授業中」と言う時間帯に含まれている。故に、二人以外の姿が存在しない理由になる。

 逃亡している人物は女子生徒なのだろう、この学校は標準服と言う学生に相応しい色柄形式の規定はあるが、それも特別に逸脱さえしていなければ教師からの視線は厳しくない。女子がズボンを着用していても、男子がスカートを着用していても色がシックなもので一目で警察に通報されたりする様な格好……全裸だとか水着だとか下着同然であるとか、そう言う姿で無ければ千鳥合資柄で膝丈のショートパンツに白いシャツ、ネクタイにベストを着た黒髪ポニーテールの女子生徒を。

 追い掛けている人物は男子生徒だが、その背格好はともかく衣服が何処の国の民族衣装かと言いたくなる、あえて言うのならばギリシャやエジプトのずるずる系民族衣装に近い形の、されど清潔な布地で本人も風呂に入ったばかりでさっぱりしていると言った風貌の男子生徒が。

 とりあえず……マッハでも出ているのではないかと思われる程度の速度で追いかけっこをしている状態で、誰も出て来る事も声をかける事もないと言う状況にはならないだろう。

 茶髪で男子生徒にしては長目の髪をした少年が、黒髪でファッションセンスのある女子生徒を全力で追い掛けていると言う構図に変化が訪れたのは、逃亡中の女子生徒が多目的に使用される空き教室に鋭角な角度で飛び込んだのが切っ掛けだったと言えるだろう。


 □ □ □ □ □


「いい加減にして貰いたいものなんだがなあ……」


 ふう、やれやれと言いたいと全身で語りながら。
 少女は、一息つくと見た。


「観念したようだな」


 少女の向けた視線の先にいたのは、できれば少女にとっては夢幻とか白昼夢とか、頑張って譲っても少女の想像とか妄想とかの実現しない相手であるか。もしくは、全くの別人であって欲しいと思う相手。
 つまり、今の今まで少女本人を追いかけてきた少年そのものだった。


「観念も何も、ワタシは君に追いかけられる理由なんて……ない!」


 きっぱりと言い切った少女は、平均より若干背が低い事を除けば可愛らしいと言えるだろう。
 少々つり目ではあるが、ぱっちりと開いている瞳には知性の光が宿っているのが見える。
 特にこれと言って有名な所はないが、世間一般では十分に華奢な体躯と長い髪から隠れファンは結構居る。
 ただし、少女自身に何かをするとか危害を加えるとか好意を示す等と言った事は基本ないので。少女本人も裏で人気がある事は気がつかないと言うのもあるが、世間に対する評判と言うものに興味がないと言うのも理由のひとつだろう。
 本当に、とんと興味のない事には意識が向かないのは普通の人の範疇だと少女は思っている。


「理由? そんなもの……どうでも良いんだよ」


 目がイッっちゃっていると少女が内心で思っている先には、やはり息一つ乱さず走ってきたズルズル衣装の少年がある。

 少年は、少女と違って幾つかの理由から大変有名な存在だったりする。
 まず、少年は顔立ちが少し甘目ではあるが大都市の有名街を通れば一日に一人か二人くらいからスカウトを掛けられる程度には綺麗な顔立ちをしている。加えて、今は少しばかり精悍な顔立ちになっている所から新たなるファン層を確立するかも知れない。
 この学校では定期試験の際に上位30人の名前が貼り出されるのだが、少年の名前は常に表示されている中にある。その中で多少の上下はあるものの、全くの圏外と言うところには今の所……ここ最近の試験の時だけは名前が無かったと言えるだろう。
 最後は、彼が久しぶりに登校したと言うのが最大の理由で。彼は行方不明で、彼が行方不明だったあいだに試験が行われた関係で、彼は入学以来で始めて試験の結果の張り出しに名前が無いと言う状況になった。


「何を目を座らせているんだか……『そんな物』を振り回して、覚悟の上なんだろうね?」


 少女が告げた『そんな物』を、もし二人以外の誰かが存在したのであれば我が目を疑った事だろう。
 もしくは、現実を逃避したかも知れない。少女も心の底から現実を逃避したくてたまらなかったと言うのは、聞かれないから言わないだけで正直な感想だ。
 はっきり言って、逃亡希望だ。


「余計な事はどうでも良い……お前こそ、今の状況をわかって言っているんだろうな?」
「この状況で何も理解出来ない人って言うのは、病院を紹介するべきか電子工学系会社を紹介するべきか悩むべきだと思うのはワタシだけかしら?」


 少女の目から見て、今の状況と言うのは少なくとも少年が見ている様に余裕のある静かな笑みを浮かべていられるものではないだろう。
 少女が見ている少年の姿と言えば、先ほども述べた様にどこかの民族衣装の様な服装だ。装飾品は目立たないがゼロではないのはズルズルの衣服が落ないようにと言う実用的な部分もあるが、さり気なく手首や耳にも着けている物があるのを少女は見た。あとは腰のベルト、指に付けられた指輪は中々に迫力がある装飾が施されており……少女の見た限りでは指輪をベルトの留め具に近づけたら少年の手の中から光が伸びていた。
 指輪のついた手を腰に近づけた瞬間に拳が光を放ち……その手を体の外側に向けると同時に円を描くように光が伸びて行く。
 長さ、およそ160センチ少々。恐らくは、少年の身長とほぼ同等と言う所だろうか。
 普通ならば、映画の見過ぎで済ませたいものだ。伸びた光が空気を切り裂く音はどっかで見た映画の効果音とは異なりヴォンヴォンと音を鳴らす事はないが、さりとてお遊びで光の刃で試し切りをしたいなどとは思わない。
 少女の予測が当たらぬ事を天に祈りたくなったが、もし該当するのであれば……。


「ふん、何を余裕をかましているかは知らんが……」
「あらあら、舐められたものだ事。
 貴様程度に読まれる程、ワタシの脳みそは単純な構造ではないのだから当然と言うべき事よ。
 宜しくて? ワタシは理論的に見聞きした環境から状況を理解し打開する術を構築しているのだから、余裕にみえる態度の一つや二つは心理戦を使用する際には逆に必要と言うのが定石と言うものではないかしら?
 もっとも、貴様みたいに見てくれが派手な物理的な武器を振り回す事だけを手段としていると言うのであれば致し方ないとばかりに大人目線で哀れんで差し上げてもよろしくてよ?」


 ぎりっ。


 どこにあるのか……手の中にすっぽりと収まっているのか知らないが握り締め直された音がする。
 誰に言われるまでもない、少女は自分自身のセリフが相手を挑発するにも程がある程度に慇懃無礼だと言う事を自覚している。
 当然、すでに日常では手の中から光の塊を剣として振り回していると言う。ある種のマニアには<ruby>涎<rt>よだれ</rt></ruby>もので自称現実主義者から見れば現実逃避を切望すると言うより茫然自失になるだろう状況の中にあって、一見すると冷静に対応しているとしか見えない少女の姿もまた、一般的ではないだろう。
 超常的な現象を引き起こした少年と、それを目の当たりにして動じている様には見えない少女。
 一体、両者のどちらがより一般的ではないのかと問われれば「どっちもどっち」と言うのが最も一般的な意見かも知れない。


「嘗めているつもりか……!」
「冗談は止して頂戴、誰が何日もサバイバルよろしく逃走犯にしか見えない仮装大賞会場帰りの浮浪者にしか見えない若い男性相手を甜めなければならないと言うのかしら? 何日も水の一滴も口にしていない飢餓的空腹状態であったとしても女性として人として学園生徒としての<ruby>矜持<rt>プライド</rt></ruby>にかけてごめん被らせていただくわ、むしろ廃棄処分が相応であると判断するわね」


 一応は解説しておくと、少年が言った嘗めるは馬鹿にすると言う意味であり。
 少女が言った甜めると言う意味は、舌の先で撫でるように触れると言う意味だったりする。
 厳密に言えば、馬鹿にすると言う意味での「なめる」は俗語として扱われるので現代国語としての文字的な意味では嘗めるも甜めるも同等の扱いを受けているわけだが……その当たりは、<ruby>感覚<rt>ニュアンス</rt></ruby>での受け取り方次第と言う所だろう。
 現に、馬鹿にされたと感じた少年は意味がすれ違っている事に気がつきもしないし。
 言い返した少女に至っては理解した上で……わざと、そう言う風に話を誘導したと言う自覚はあるのだ。

 ちなみにこれは少年の脳みそがお花畑的に可哀想だから、と言うわけではないが同情も出来ないと少女は思っている。
 厳密な意味での理由は想像の範囲でしかないが、概ねに置いて想像より現実の方が性質は悪いだろう。
 もし、これが本来……入学して以来の少年であるならば少女が言っている言葉の意味を笑いながら理解しただろうし。そもそも、手から光を剣の形の塊にして構えてきたりもしなければ学校と呼ばれる校舎内を絶句する速度で追い掛け回したりしないだろう。普通に犯罪だ。
 しかし、少女が久しぶりに見た少年を見て脳内で判断した問題に対する答えは頭痛を覚えるほどだ。しかも、幾つも脳内会議で検索した対応策はどれも気鬱になりそうな予感がひしひしとするのが少女の全てに含まれる感想だった。


「口の利き方に気をつけるんだな……こんな所に逃げ込んで、今度は何を企んでいるつもりだ!」
「失敬ね、貴様」
「何だと!」
「そうでしょう? そもそも、久しぶりに会った級友に向かっていきなり犯罪者よろしくえげつない形相で追い掛け回したあげく、今。貴様がしている事はなんだと言うつもりなのかしら?
 一見すると一部の人がテンションマックスを振り切って崇め奉りそうな、物騒というべきか子供っぽいと言うべきか悩む代物を振り回してどうするつもりなの?
 念の為に言うけれど、現在進行形で貴様もワタシも遅刻扱いにされている状況なのよ?
 この、無遅刻無欠席を誇る私が、たかだか必死の形相で何の前フリも一切の説明もなく全速力でイッっちゃっている目でワタシ目掛けて突撃をかまそうなどとした貴様ごときのせいで!
 突然そんな目に合わされたワタシに、一体何をどんな風に要求しているのか聞きたいくらいだわ。幾らこの学校が金持ち学校と世間で<ruby>揶揄<rt>やゆ</rt></ruby>されて生徒達への素晴らしい環境に置いて設備を整えられているにも関わらず、それらを何の<ruby>躊躇<rt>ためら</rt></ruby>いもなく吹っ飛ばして破壊活動を行ってきた相手に逃亡しないで戦えとでも無茶無謀な無理難題をふっかけるつもり?」


 そこまで言われて、少年は始めて少女が怒っている事を認識して。
 どうやら、今の今まで何が何だか理由はともかく頭に血が上っていたらしい。
 元来、少年はあくまでも常識の範疇で動くのが基本であって、別に抑圧された精神的外傷問題によりこじらせた世間的で言う「厨二病」と言うもの……に関しては、一見すれば判らない程度には普通だ。


「お……お前の様な物が文句言うな、大体……」
「あら、貴様は一体。どこの誰に、何を言っているのか、理解した上での言動だというのかしら?
 ワタシが一体、どこで、誰に、何をして来たと言うつもりなのかしら?
 それは、とてもとてもすごく、貴様自身の中で口にするべきか否かの裁決を必要とするべき事柄ではないのかしら。
 だからこそ、ワタシは一つだけ忠告をして差し上げるわ。
 口にした瞬間から、逃げることも帰る事も出来無くなるわ。とね」
「え……と、それは……」


 少女は内心で「掛かった」と思っていたが、それは脳内だけに留めておくべき事だと言うのを同時に理解していた。
 もし、少女の頭の中身を少年が見る事が叶ったとしたら全力をもって逃走しろと本能が忠告したかも知れない。だが、現在進行形で少年の脳みそは飽和状態なのか少女に対しての構えを解いてはいない……少年の心の中に、今の今まで確たる厳然たる事実として思い込んでいただろう理由に、強烈な一発が与えられて揺らいでいるからだ。
 上手く行ってくれた様で良かったと思う反面、最後まで気が抜けない事が少女には面倒な事態だというのも判っていた。


「ええと……て言うか、お前そんなキャラだったか? あんな足が早かったりしたのも貴様とか呼びつけるのも今までが演技だったとすれば、この世界で何をするつもりだ!」


 少女は、心の中で思い切り舌打ちをしたくてたまらなかった。
 実際、現実でもしてやりたいと心の底から思ったけれど我慢した。
 どうやら、少年の頭の中で行われた脳内会議で何らかの決議が即効で行われたらしく。少なからず冷静さを取り戻し、取り戻した瞬間から色々な矛盾点や問題点を含んだ所謂「もう自分の生命力はゼロであります……!」とでも言いたいのか吐血した真似をしながら倒れてしまいたい状態になっているらしい。
 とりあえず、顔を赤くしたいのか青くしたいのかよく判らないと言う表情になっている様にみえる所は器用だと言って良いだろう。


「何を今更……入学してから特にこれと言った交流があるわけでもなく、同じ委員会に所属しても部活を理由にほとんどすべてをワタシに押し付けて体力発散しながら無邪気に構内の敷地を散歩する犬のごとく走り回っていた輩が言うセリフとして相応しいのかしら?」
「ぐは……っ!」


 少年の心が思い切り乱れたらしく、光の塊は妨害電波を受信したブラウン管テレビの砂嵐の様にゆらぎがはいった。
 もともと、この手の系統は保持者が冷静である事が絶対条件なのだから精神的な攻撃には案外脆いと言うのは知識がる者にとっては割と普通の情報だ。

 そう。

 知識がある。


 何はともあれ、少女は現時点でそれを指摘するつもりは毛頭ないし。
 少年は、現在進行形で思い当たらないどころか想像は斜め上を行っているようだ。


「判った……」


 何故だか、その時の少女の心に過ぎったのは一つだけ。
 世間で言う「悪い予感」と言うものだった。
 少女は、色々な理由から己の予感を大事にする性質を持っている。今まで、大なり小なり存在する様々な<ruby>人間関係<ruby>トラブル</rt></ruby>を解消する為には非常に役に立ってくれた。
 対応策は己で考えなければならないと言うのが弱点と言えば弱点だが、弱点でないと言えば弱点ではないだろう。


「責任を取る、結婚しよう」
「何がどうしてそうなった!」


 偽り無き少女の心からのセリフに、少年は目が血走っているが表情筋は笑顔だ。
 顔は笑っているのに目が怖いなんて、一体全体の所何があったと言うのか……。


「お前が『あちら』で何をしてきたとしても、今『この場』で影響をどんな風に与えているかなんて判らないよな。そもそも、俺がきっちり『断ち切った』以上、『あんな』な事が出来るわけないんだし? かと言って、何一つ『こちら』に影響が出ないとも限らないからな……監視と捉えて貰ってもいい」
「最悪だ!」


 状況を、少女は知っている。恐らくは、少年が知らないような事まできっちりと。
 故に、どうして少年がそんな事を言いだしたのかも何となく想像がつかないとは言わない。出来ればあたって欲しくない想像と言う名の宝くじは基本、当たる様に出来ていると言う事実を今だけは外れて欲しいと思う事も一度や二度ではないし、そんな度々思うことがあると言う日常に対して思うところがないとは言わない。

 が、しかし。


「そうだな、事態は最悪だ……」
「重々しく言っているが貴様、本当に状況を理解した上での発言だとは到底思えないんですけどっ!」


 絶対にありえない、とまで少女は内心で思っていたりする。
 少年に対しての評価が、あまりにも低いと言わざるを得ないが事情があるのだ。


「当然だ」


 そんな、無闇矢鱈ときりっとした表情をされても少女にしてみれば信用度はゼロだ。
 厳しいかも知れないが、少女にはそれだけの理由がきちんとあるからだ。


「ならば問おう、貴様は一体『何処』から現れた」
「どこって……お前だって知ってるだろう? 俺は『XXXXX』……あ、あれ?」
「ちっ」
「舌打ちっ!? 今、舌打ちしたっ!?」
「五月蝿い、黙れ。
 ……理解したわ、状況は最悪の上塗り。恥よりも尚恥ずかしい状況と言う奴だって事がね」


 今にも頭を抱えてごろごろ転がりたい衝動に駆られたが、とんでもない自制心は頑張って働いてくれた。
 少女は、己の自制心に感謝した。が、その自制心を培った状況を想像すると余計に頭痛がした。
 感謝するべきでも、その必要も無かった。


「恥より恥ずかしいって……」
「今、ワタシは貴様の言語が一部認識出来なかった」
「ああ……な、なんでだ? 俺はちゃんと『XXXXX』って言ったつもりで、今も……」
「それは、世界を異なる為に言語が構造的に異なるであるが故に発声及び発音が不可能と言う状況だから。
 詰まる所、貴様が行方不明になっていた間は『この世界に存在しなかった』と言う事がワタシ『には』証明されてしまったと言う事で……どうしてくれやがる!」
「え……えぇっ!?」


 少年は、混乱した。
 つい今し方の混乱など、目ではない程の混乱ぶりだ。
 これには、少々でないだけの理由がある。一言で言う事は不可能で、それこそ壮大で盛大な三部作長編映画でも2時間3時間なんてものではなくて……と言う程の物だと少年は思っている。
 もし、これが少年の部屋で普通の目覚めたのならば夢だったのか否か判らなかっただろう。もしかしたら、夢と認識して甘酸っぱい思いを心に秘めたまま普通に家を出て……。
 大騒ぎになっただろう。


「良い? 貴様はここ数カ月を行方不明になっていたの。
 学校だけではなく、友人達、級友、部活の知り合い、ご両親、関係者、旧友達が総動員で貴様の事を捜索しまくった。警察にもマスコミにも貴様が行方不明になった事で大騒ぎ、一時など世を儚んで自殺説まで普通に流れた。連日テレビで取り上げられコメンテーターやら心理学者やらが、構内に押し寄せて大騒ぎになった事件のケリを、貴様は猛ダッシュでワタシを追いかけてきたなんて事を仕出かしてくれた為にワタシも自動的に関係者と目される羽目になった現実をどうしてくれやがる!」


 突然、襟首にあたる部分を掴んで前後に揺すられた少年の手からは光をまとった剣はとっくに音を立てて消えていた。
 まるで、ガラスが地面に落ちた時のような綺麗な音がしたものだと言う事で少女はほっと一安心したものではあるが……次の問題が持ち上がっては<ruby>余韻<rt>よいん</rt></ruby>に浸る事さえままならないのだと知ってしまった。


「よく聞きなさい、貴様はこれから沢山の人々の前に出て土下座せんばかりに這いつくばって迷惑を掛けた人々全員へ全力を持って許しを請わなければならない。
 何故なら、貴様はあろう事かこことは異なる世界……所謂、異世界なんて下らないものに下らない奴らに愚かにも掌の上で踊らされて大量虐殺をしてきたなどと言う馬鹿馬鹿しい存在に成り下がったツケを支払う為よ!」
「な……!」


 その「な」には、意外と多くの意味が含まれていた。
 例えば、何故そんな事を知っているのか、どうしてお前にそんな事を言われなければならないのか、またはそこまでしないといけないとはどう言う事かとか、他にもだ。


「だが、何よりもお前が罪深いのはご両親に迷惑を掛けた事だと知りなさい!」


 少女曰く、ここ数カ月で少年の両親はとても大変な目に合っていた様だ。
 直接会う事は無かったというが、連日の上記に渡る人々との関係もそうだが息子が大々的に取り上げられるように忽然と消え失せてしまった事による心労は計り知れないと言う。


「ええと……いや、その事に関しては……」


 思わず、少年が血走っていた目を正気に戻してしまう程度には視線を反らしてしまっていた。
 つい今さっきまで「人一人くらい平気でキャッホーしてました」と言われても否定出来ないような形相で少女を襲いかかろうとしていたとは思えない程の変身ぶりには、流石の少女の目も<ruby>胡乱<rt>うろん</rt></ruby>な状態で笑ってはいない。


「先に言っておくけれど、今さっきもそうだったように『本当の事』など言おうとした所で無駄だから、そのつもりで」
「本当の事……無駄……けど、どうして……」
「異界に渡るには当然の事ながら、生きたままと言うわけにはいかない。時間航行だけならばまだしも、『世界の<ruby>理<rt>ことわり</rt></ruby>』が異なる環境に放り込まれて平然と生きていられる道理がない。
 つまり、貴様は世界を渡らせる為に『奴等』の設計図によって一度分解されて再構築された。その際に、貴様には『呪い』がかけられたと言うのが理解出来る範囲の言語でしょうね、厳密にはもう少し違う言い回しが妥当ではあるのだけれどワタシ達の年齢と学習能力を考慮した結果から換算すると他に該当出来る言語としては数が多くはないの」


 見た目通り、少年は幼い子供ではない。だからこそ、少女の言葉には思い当たる所があるのか顔色を変えた。
 しかし、そうやって動揺していたが故に少年が気がつくことは無かった事実が一つ存在する。


「けど、それもこれもお前のせいじゃないか!」
「……ワタシの?」
「そうだ! あの世界の人達が困り果てたのも、お前達が……お前が、『魔王』が存在したから……!」
「『止まれ』」


 少年が少女の言葉に耳を傾け、言葉を<ruby>咀嚼<rt>そしゃく</rt></ruby>し、言葉の意味を飲み込んで理解した時から目つきが変わって行ったのを少女は感じ取っていた。目に見えて理解出来るからこそ出来た防衛策ではあるが、こうも想像の通りに事が運ぶと米神のあたりにズキズキと感じる痛みがある。
 物理的ではないからこそ、対応がしにくい……出来ないとは流石に言わない、そんな痛みだ。
 もしかしたら、これは物理的な痛みだったかも知れないけれど。


「まったく……貴様がその様に短絡的とは……な。
 これもまた、書き換えられた貴様の内側の問題と言うものでしょう。
 ああ、一応貴様にも理解出来る言語範囲で口頭による説明を聞きたくなくても無理に聞かせてあげるから感謝はしなくても良いから記憶して置きなさい」


 無茶苦茶な言い分ではあるが、今にも先ほどの様に構えようとしていた少年はピクリとも動かなかった。


「貴様が反応しないのならば肯定と見なすわ、反論も異論もした所で無駄だから余計な体力を使うのはやめておくのをオススメするから」


 これもまた、とんでもない言い分である。
 しかし、やはり少年は微動だにしない。
 まるで出来ないかの様で、けれど視線を外すこともない。


「言っておくけれど、ワタシは貴様が無駄に呼び出された世界でバカみたいにはしゃぎまくって大量虐殺を繰り返してきただろう世界の事も愚かな住人達の事もどうでも良いの興味もないの生死も問わないの」


 そのセリフを、傍若無人と思うだろうか?
 冷たいと、非道だと、優しはないのかと問いかけるだろうか?


「当然でしょう? 何しろ、ワタシには何の関係もないしワタシ達の世界に関わる事もなければ必要もないのよ。
 世界と言うものは状況がどうあれ与えられた環境で適応出来ないものは自然淘汰されるものと相場が決まっている、その為に世界はその意志を持って適用及び対抗できる手段をきちんと構築してくれる。そう言う風になっているものなの」


 少女は、少年と違い呼び出されたわけではない。
 恐らく……少女の想像では厨二病を発病させている部分がある少年は、最初こそ戸惑った事だろう。
 現状に置ける理解が出来ず、もしかしたら一晩くらいは恐怖心で泣きたい夜を過ごした日もあったかも知れない。
 だが、少女の想像では少年を呼び出した奴等にとって少年は餌だ。
 あちら側の世界の人類……もしくは、人類的な何か。呼びだれた先の存在がどんな人種だったのかはまだ聞いていないが、こんな風に反応すると言う事は少年にとって特別に反応する様な種族または人種ではなかったのではないか、もしくは奴等が少年を作り替えた時に特別に反応しないようにしたか、それとも気がつかせない様にしたかのいずれかだろうと睨んでいる。


「しかるに、貴様をわざわざ馬鹿みたいに余計にあるわけでもない『力』をわざわざ無駄に利用してまで。おまけに同じ世界ではなく異なる世界からえぐり取っていった礼儀知らずな奴等が使った手段……「召喚」と言うものは本来<ruby>cheat<rt>ずるい</rt></ruby>ものでしかない。要するに、書き換えたと言うのはそう言う事」


 最近の風潮としての「チート」と言う能力は特別な存在とか選ばれた者と言う意味合いで使われているが、元となった英語やコンピューター用語ではずるい手段として使われている。
 判りやすく言えば、一般人がシステム管理権限を有していると言う感じになるだろうか?
 それを、本来ならば与えられるハズもない無関係な存在に。恐らく、自分達には逆らえず同情心を誘い、呼び出した奴等の基本的絶対な味方となる様に精神も書き換えられただろう。
 肉体だけ書き換えたとしても、精神まで上書きしておかなければ逃げられる可能性は十分ある。


「無論、そのために置ける面倒くさい手段も必要な力も馬鹿みたいに莫大なものとなるわ。貴様にかけられた呪いから見ても本来は必要がないし『魔王』にした所で同じ事」


 別に特に秘匿されている情報ではないが、世界に与えられた「モノ」とは一定と言うより減少する事は普通にあるが増幅すると言う話を少女は聞いたことがない。
 世界が世界として生まれた時に与えられた資源、例えば水であり鉱物でありと言うものは植物や生物と違って増える事はない。植物や生物は基本的は生命が循環していると言う見方も出来るが、近年は増加の一歩を辿っているいる事もあり資源の枯渇が心配されているのは、どちらにしても何百年か後か先に判明するだけの話だ。


「そもそも、世界によって異なる部分はあるとしても『魔王』としての存在認知がされて実際に世界に影響力を与える程の能力を持ち得ていると言う事はそもそも論として世界にとって『魔王』と言う存在が認定されている必要とされている、すなわち世界の認識に置ける人類と同等の立場を有しているものであると言えるわけなのよ」


 少年少女が存在する世界には、物語世界でも無ければ基本的に魔法や魔王などと言った存在はしない。
 王家、貴族、階級制度と言ったものは普通に存在する。
 しかし、歴史の中では「もし人類が科学を選ばなかったら」と言う仮定が存在する様に一定の時期を隔ててみれば科学と魔法が入り混じった物事が存在する事が、ないとは言えない。


「何故なら、人類の歴史を紐解いて理解出来るように人の歴史は戦争と戦いと愚か者の歴史。イマドキで言えば黒歴史に該当するかしら? あれって、元々は男の子向け戦争ロボットアニメに出てきた設定及びセリフの一言よね?」


 ふと思いついて口にしてみたが、話がずれてきたのを少女は判ったようで。
 そしらぬ振りをして、話を戻していた。
 とは言っても、少しばかり顔が先ほどより赤らんでいる様に見えなくもないが。


「それはともかく、人が世界にとって淘汰されていないのは世界にとって認識しても構わないと思われているからであり。他の種族が人類と同等の進化を遂げた場合は人類がその種族と手を取り合ってお互いを高め合うか、それとも敵対して貴様がしてきたようなバカ丸出し黒歴史みたいに戦いあってお互いを殲滅しあうかの二択に分かれるものなのよ。
 何故なら、その時点で世界にとって人類は至上の生物と言うわけではないし場合によっては滅んだところで構わないと目されていると認識出来ると言うのが理由」


 極論ではあるが、人類が人類同士で限りある地球を国家だ人種だ宗教だとお互いの住み分けをしながらも隙を見せれば喉笛を掻ききる野生動物よろしく。お互いを監視しあっているのは、他に戦うべき相手が存在しないからに過ぎない。
 もし、これで土の中や水の中、空の彼方や宇宙、異次元などと言った他所の領土や進化した生物と言う中から現れた敵が存在した場合、人類は己の種族保持の為に様々なつまらない矜持を投げ捨てて自己保身の為に手を取り合う……かも知れない。
 現在のところ、その環境にいない以上は証明が出来ないのが非常に残念だ。


「世界によって与えられ構築された<ruby>試合<rt>ゲーム</rt></ruby>になんの関わりもない違法な存在をねじりこんできたと言う奴らの方がよほど世界の意志を捻じ曲げている気がしてならないわね。世界の保護強制力が働いてそれ相応の罰を下すと言うか……要するに、貴様がこの世界で異世界としか言い様がない玩具メーカーと屋外舞台で効果音と共に使用するともれなくお子様と大きなお友達から大人気になれる可能性があると良いね、と言うものを使い続けるだけでも奴等の世界の人類が死期に近づく早道となるので……あら、嫌だ。それならどんどんソレを貴様に使わせてやった方が向こうの世界の為になると言う事ではないかしら? どう思う……て、そこまで無反応と言う無駄な努力もどうかと思うけれど?」


 ある意味、これは野外ステージで僕と握手をするとか、玩具メーカーに持ち込んでアニメや特撮の企画として売り込んで来いと言っている様なもので。


「ねえ、ちょっと?」


 しかしながら、流石に少女も気がついた様である。
 異変に。


「……冗談はやめてくれないかしら? 器用にも唇を青ざめさせて皮膚も青から白からどす黒い色に変化させようとするなんて暇なことをしないでくれない?」


 たらり、と少女の額から汗が流れていた。
 よく見ると、多少は薄暗いとは言っても昼間の室内で超像の様に立ち尽くした少年は武蔵坊弁慶の様だ。
 流石に、彼のように仁王立ちになって全身に矢を受けたというわけではない様だが。


「やばい……」


 状況は、一変した。


 □ □ □ □ □


「跪きなさい」


 視界がくらりとするのを、感じた。
 本人的意識によると数日的なものではあるが、周囲から見ると奇異にみえるものだと言うのをひしひしと感じた。

 少年だ。

 以前のように、ずるずると「どこの民族衣装ですか?」と問いたくなる様な服装でもなく。
 じっくりと周囲が見る前に「何人ヤッちゃってますか?」と言いたくなるような形相でもなく。
 視界に入れる前に消え去りましたと幾人もの生徒が証言する様な、風よりも早く走るかの如く……流石に風より速く走れるとは本人も思わないが。
 朝の早い時刻ゆえ、それほど人が多くはないとは言ってもゼロではない時間帯で。


「……一応、聞いても良いかな?」
「聞く前に跪きなさい」


 「靴をお舐め」
 そんな言葉が続いているのではないだろうかと少年は思ったりもしたが、流石に朝のさわやかな時間帯に聞きたいセリフではない。
 否、それ以前のセリフも同等ではあるのだが。


「なんで?」


 これは、もうすっ飛ばしてこちらの要求をねじ込むしかないだろうと判断したのは間違いではなかったのか。
 少女……そう、数日前に必死の形相で追いかけて窒息死でもするのではないかと思われる程度に殺されかけた相手だ。それまで、少年の方が少女を殺そうと追いかけていたハズだと言うのに。
 何故だろうか、少年は理不尽を感じた。
 字面だけ見れば、少女が殺されかけたので正当防衛で過剰防衛をしただけだと言うのが最も適当な気がしないでもないが、過剰防衛の時点でどうかと言う話もある。


「貴様の……」


 腕を組んでいるが、その全身がわずかにぷるぷる震えている。
 今日も元気の印とばかりに頭上に結ばれたポニーテールは少女の怒りに合わせてふるふると揺れて可愛い。
 可愛いの、だが……。
 何故だろうかと少年は思う。
 先ほど感じた理不尽と同じだけの危機感を、ものすごく感じる気がするのは。


「貴様の……せいだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「それ、どこから出したぁっ!?」


 びゅん


 風を切って振るわれるのは今の今まで少女の手に何も無かったと錯覚させる棒で、実際には処女の手の中には通信販売で買えたりする伸縮材使用の仕込み警棒があったりする。
 どうやら、袖の中で短くした状態だった為に腕を組まれていた状態では少年の視界には入らなかったのだろう。


「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!
 ワタシの無遅刻無欠席を……返せぇっ!」


 半泣きと言っても過言ではない状態で、少女が警棒を振るってくる。
 少年にしてみれば、実を言えば少女曰く少年の記憶にあるように行ってきた異世界での行動の記憶により避けるのは難しい話ではない。
 少女の実力が全開かどうかはさて置き、所詮は少女程度のガタイでは速度も重さも少年の記憶にある相手と戦った状態に比べれば可愛いものだ。


「ちょ、待て!」
「待つか馬鹿者! 貴様のせいでワタシの……ワタシの無遅刻無欠席の記録がパアになったんだぞ!」
「いや、それって俺のせいじゃないっていうか……」


 時間を少し巻戻してみると、先日の行方不明だった少年が突然現れた時。
 少女の起こした何らかの「手段」で少年はチアノーゼを起こしかけており、即効で少女が連絡を取りつつ心肺停止状態になった少年を蘇生させたおかげで事なきを得たものの。
 その後、事情の説明を求められたり事情をある程度は誤魔化していた事などを含めた結果、少女は一日ずつ警察及び学校関係者に補足されて少しばかりのお叱りを受けた後で開放されたが、少年と走り去ったあとを含めた正味二日半と言った時間帯を無断欠席扱いとされていたりする。
 合掌。


「貴様以外の誰の責任だ、ワタシに罪を擦り付けるつもりかっ!」
「いや、そう言うわけじゃ……」


 実際のところ、少女にしてみればえらく大変な状況に追い込まれたあげく無遅刻無欠席の記録が停止では割に合わないと言うのは確かなもので。
 しかも、少年も気を取り戻したら即効で土下座でもなんでもすれば違っただろうが残念な事に、意識を取り戻したが<ruby>朦朧<rt>もうろう</rt></ruby>としており、ついでに一息ついたら両親だ警察だマスコミだとえらい騒ぎに巻き込まれてようやく逃げ出したと言う有様だったりする。
 正直、よく短期間で復学出来たものだとしみじみと幸せを噛み締めていた矢先。


「ならば、どう言うつもりだ!」
「だ……アレはお前が無茶するからだろうが!」
「それ以前にワタシを追い掛け回してきた貴様が悪い!」


 もっともだと、その場にいたらしい数人の生徒は納得しながら即効で携帯端末を操作している……どうやら、この騒動は時間をおかずに学校中で暇を明かした生徒達への非日常と言うスパイスになるだろう。
 もし、少年が当事者ではなく他人事であったならば間違いなく欠片の野次馬根性で今後の展開を楽しみにしたに違いない。
 ……あくまでも、当事者でなければ。


「いや、だってお前……」
「お前とか言うなぁっ!」


 どちらかと言えば、別の理由から止められたのだろうと思えるタイミングで放たれた一撃は。


「おま……本気でやってるだろう!」
「当然だ、ワタシに貴様を本気以外で叩きのめす理由は……ない!」


 良い笑顔である。
 良い言い切りである。
 良い効果がかかって、まるで男装女子の様だ。本人にその気はないのだが。
 裏では身長以外は完璧な紳士とまで言われているだけはあるが……男子からの人気も何気に高かったりする。
 しかし、それも他人事ならばの話だ。


「逃げるな!」
「冗談は勘弁してくれ!」


 繰り返そう、少女は人気者だ。
 身長以外は完璧な紳士と女子の間では上級生にも同学年にも下級生にも慕われ、男子にもさっぱりした性格と身長の低さと公平なものの見方をする所と、身内には甘い点があるのも高評価だ。


 故に、知らない。
 この後で叩きのめす事に失敗して悔しがる少女を慰める女生徒が列をなして、なんだか少女を余計に疲れさせる事を。
 この場を何とか逃げ切った少年が、上級生同級生下級生から、集団リンチ数歩手前の状態で少女に何しやがると迫られる事を。


 そして、忘れていた。
 少年にしてみれば、少女がどうして少年の身に起きた事を大体理解しているのか確認し損ねている事を。
 少女にしてみれば、少年にどう言った呪いと呼ぶべき状態を発生させるための条件を。

 この続きは、どうやら別の機会になる様である。

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